近年、営業や広報など、あらゆる職種でマーケティングの仕組みが取り入れられ、業務を戦略化することでパフォーマンスを高める動きが活発化しています。採用領域も例にもれず、戦略的に人材を獲得して定着させるために企業のマーケティング力は必須のものとなっています。
本記事では、採用マーケティングの基本的な内容や具体的な実施手順などを紹介します。
1.採用マーケティングとは?
採用マーケティングとは、従来の採用活動にマーケティングの手法を取り入れ、求職者の認知形成から母集団形成、応募促進、内定辞退防止、離職防止を含む人材定着などを戦略的かつ効率的に行うことを目的とした取り組みです。採用課題を戦略的に解決するいぬのては上記の意味で使用していますが、実際のところ定義は会社によってまちまちです。
そもそもマーケティングとは、物が売れやすくなる仕組みをつくる取り組みです。これに沿って考えると、採用マーケティングとは応募がされやすくなる仕組み、あるいは社員に定着される仕組みや帰属意識を高める仕組みなどをつくる取り組みと言うことができます。

1-1.従来の採用手法との違い
従来の採用手法は、「応募の獲得→選考→採用→内定→入社」という一連のプロセスをそれぞれ点の作業としてとらえて行われていました。また、応募数を可能な限り増やしてふるいにかけるという方法が主流で、この方法で採用活動を行っている企業も未だに多いのではないかと思います。しかしこれらの方法では、応募数が一定数いないと成立しなかったり人材マッチの精度が低かったりして、無駄な採用コストや労力を費やすことになってしまいます。
一方で採用マーケティングは、「その人材はなぜ必要なのか」のように採用活動を行う根拠を明確化し、「いつ」「どこで」「誰が」「誰に」「何を」「なぜ」「どのように」「いくらで」「どれくらい」といった6w3hのようなポイントを施策ごとに細かく決めて行っていきます。また、採用活動を行う根拠や施策は、感覚的ではなくデータに基づいて抽出。求職者の認知形成から興味喚起、応募促進、エンゲージメントの維持、そして入社後の定着までを包括的に線で考えることも特徴の1つです。

1-2.採用マーケティングが求められる背景
近年、採用マーケティングが注目される背景には、一番に「採用市場の変化」が挙げられます。少子高齢化の進行によって労働力不足は今後ますます深刻化していき、優秀な人材を効率的に確保する必要性が高まっています。特に予算や知名度があまりない中小企業やベンチャー企業などは、従来の採用手法だけで競争を勝ち抜くことが難しくなりました。予算や労働力などのリソースが限られるなかで、できる限り高いパフォーマンスを戦略的に出すために、採用マーケティングが必要だと考えられているのです。
2.採用マーケティングを行うメリットとは?
ここまでの説明だけでも採用マーケティングを行う必要性は伝わったと思いますが、採用マーケティングを行うことで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
2-1.適正応募の増加
従来の採用手法では広範囲の求職者にアプローチしていたため、ターゲットではない求職者も多く集まり、採用活動が非効率になりがちでした。自社が求める人材像(ペルソナ)を明確にして戦略的に施策を実施することで、情報がターゲットとなる求職者にピンポイントでリーチし、適正な応募を増やせるようになります。
2-2.採用業務の効率化
戦略立てして採用活動を行うことで、採用プロセス全体の効率を向上させることができます。例えば採用管理システム(ATS)の導入やデータ分析の活用によって、応募者管理がスムーズになります。また、ターゲット層に特化した施策を行うことでマッチしない人材からの応募が減るため、本来リソースを割くべき業務に集中することが可能です。
2-3.人材マッチの精度向上
こちらの求めている人材像を明確にしてアプローチしたり、自社の文化やミッション、働き方などを発信したりすることで、求める人材とミスマッチのない候補者を集めることができるようになります。
2-4.内定辞退・早期離職の防止
企業価値や働き方など透明性のあるリアルな情報を発信することで、採用過程や入社前後で感じるギャップが少なくなり、内定辞退や早期離職のリスクを減らすことが期待できます。また、ギャップを少なくすることは、社員の満足度や定着率の向上にもつながります。
2-5.採用コストの節減
データを根拠にした戦略的な施策の実施と改善を繰り返すことで、成果の出ない施策をだらだらと続けるといったムダがなくなります。成果の出る施策にのみコストを分配し、人件費を含む採用コストの大幅な節減が期待できるようになります。
2-6.潜在層の認知形成
特にSNSのような拡散性の高いメディアを利用して情報発信することで、将来的に社員となる人材に認知させることができます。現在ほとんどのSNSのアルゴリズムは、フォローしていないユーザーの投稿がオススメ表示されるので、認知形成の施策には欠かせない手法となっています。
2-7.体系的なノウハウの蓄積
戦略的な施策の実施と改善を繰り返すことで、データや経験、知識が蓄積され、社内に体系的なノウハウを構築することができます。ノウハウはデータや資料として可視化されるので、属人的にならない採用活動や人材育成にもつなげることが可能です。
3.採用マーケティングの具体的な実施手順
- 課題抽出
- 企業(採用)ブランディング
- ターゲットと理想の人材像(ペルソナ)の明確化
- 候補者・社員のフェーズに合わせた施策運用
- データ分析&改善
3-1.課題抽出
採用マーケティングを成功させるためには、まず自社が抱える採用課題を正確に把握することが重要です。例えば「応募が少ない」「条件にマッチする人材が見つからない」「採用後の離職率が高い」などの課題がある場合、業界平均や自社の過去の数字と比較してどのくらい深刻なのかフラットな目線で明確にします。そして「なぜその課題が発生しているのか」という理由もしっかり言語化しておきます。
3-2.企業(採用)ブランディング
理想の人材を引き付けるには、自社の魅力を適切に伝える「企業(採用)ブランディング」が欠かせません。採用ブランディングとは、採用を軸に置いた企業全体のブランド価値を高める取り組みです。企業のMVVC(ミッション、ビジョン、バリュー、カルチャー)、クレドなどを明確にして発信することで、求職者に「この企業で働きたい」と感じてもらうことを目指します。場合によっては、採用活動の数値を最大化するためにMVVCなどを変更することもあります。
3-3.ターゲットと理想の人材像(ペルソナ)の明確化
課題が明確になったら、採用したい「理想の人材像」を具体化します。これがいわゆる「ペルソナ設計」です。ペルソナを明確にすることで、マーケティングの主幹になる「誰に」の部分をブラさずに進めることができます。ペルソナとは仮想の人物を意味し、一般的にペルソナ設計では、年齢や性別、出身地、学歴、趣味嗜好などを細かく設定します。
ただ、細かく設定しすぎてしまうと十分な量の母集団形成ができなくなる場合があるので、細かく設定した「コアのペルソナ」と、必要最低限の情報で設計した「メインのペルソナ」に分けて考えることをオススメします。
3-4.候補者・社員のフェーズに合わせた施策運用
採用マーケティング成功の鍵は、候補者や社員のフェーズごとに効果の高い施策を継続して実施することにあるといっても過言ではありません。ターゲットやペルソナのカスタマージャーニーマップを作成し、認知、興味、比較・検討、応募、内定、入社、帰属、紹介のようなフェーズそれぞれの場面で、どの採用チャネルを使用してどのような施策を実施するかを綿密に計画します。
3-5.データ分析&改善
そして実施した施策のデータを分析して改善点を抽出し、再検証を繰り返していきます。例えば応募の少ないチャネルや離脱率の高いチャネルの原因を明確にし、数値改善の仮説を立てて再検証します。施策の実施とデータ分析&改善を繰り返し、必要に応じてペルソナやブランディングの内容を見直すことで、採用や人材定着のパフォーマンスを高く維持できるようになります。
4.採用マーケティングで取り組むべき施策例
4-1.自社の分析
採用マーケティングの精度を上げるためには、まず自社について深く理解することが重要です。具体的には4C分析やSWOT分析のようなフレームワークを使用し、市場における自社の立ち位置や、採用活動における自社の競合や強み、弱み、魅力などを整理します。また社員や応募者、退職者にアンケートを行いリアルな声を集めて傾向を分析し、他者視点の課題を浮き彫り化することも大事になってきます。


4-2.企業(採用)ブランディング
実施手順にも登場しましたが、採用ブランディングを行うことで「自社が何者であるか」を再認識できるようになります。まず自社の方針や考え方を明確にして、それをインタビューや会社紹介などの形式で発信します。発信方法はブログやSNS投稿、広告などいろいろあり、最近は動画コンテンツがトレンドになっています。
4-3.採用ATSやMAツールの活用
採用活動を効率化するためには、採用業務や応募者などを一元管理できるツールの使用が欠かせません。採用ATS(Applicant Tracking System)は、求人情報の投稿管理や応募者管理・対応、選考プロセスの可視化などを一元的に行うことができるツールです。導入にコストや時間がかかるため、年間の採用予定人数が少ない場合はMA(マーケティングオートメーション)ツールで代用してもいいでしょう。
4-4.SEO施策(対策)
SEO(Search Engine Optimization、検索エンジン最適化)は、自社のHPや採用サイト、LPの集客を強化したいのであれば必ず取り組みたい施策です。SEO施策(対策)を行うことで、ターゲットがよく検索するワードの検索結果で自社のページを上位表示させ、ページへのアクセス数を増やすことができるようになります。
SEO施策で成果を上げるには専門的な知識が必要になるため、SEOコンサルを行う会社への外注がオススメです。いぬのては採用に特化したSEOコンサルサービスを提供しています。興味のある方は、ぜひ一度お問い合わせください。

4-5.MEO施策
MEO(Map Engine Optimization、マップエンジン最適化)施策もSEO施策同様、拠点をもつ企業は必ず取り組むべき施策です。MEO施策は主にGoogleマップを対象にして行います。Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス、GBP)にターゲットが検索しそうな要素を追加し整理することで、Googleマップの検索結果で上位または優位表示させることができます。認知フェーズに有効な施策ですが、GBPで求人情報を投稿してマップ検索時に表示されるようにすることで、間接的な母集団形成につなげることも可能です。
4-6.SNS運用
今や多くの人が利用しているSNSは、プラットフォームの利用コストが基本無料なので採用活動でも利用しない手はありません。拡散性が高いため多くの人に認知させることや、コミュニケーションツールとして求職者とインタラクティブなやり取りをすることが可能です。InstagramやX(旧Twitter)、TikTok、Youtube、公式LINEなど、ターゲットとなるユーザーの数が多い媒体を選んで運用しましょう。
ただし競合が多い分、適切な運用をしなければ成果が出づらく継続も難しい施策です。SNS運用が成功しないほとんどの原因は、フォロワーやバズにとらわれて「SNSを運用する目的」を見失っていることです。反対に目的に沿った適切な運用を行えば、しっかり成果につなげられる施策と言うことができます。
いぬのては目的を見据えたフォロワーやバズにとらわれないSNS運用コンサルサービスを提供しています。SNS運用で採用成果に結び付けたい企業の方は、ぜひ一度お問い合わせください。

4-7.WEB広告運用
広告運用は、コストをかけることで一定数のターゲットに確実にリーチさせることができる施策です。特にWEB広告は効果がデータで可視化されるため、データを踏まえた検証と改善が可能です。中長期的に運用することで勝ち筋を見つけることができれば、どの施策よりも費用対効果の高い効率的な採用手法になりえます。
大きく分けるとサイトの決まった位置に一定期間設置されているような純広告と、特定のプラットフォーム上でリアルタイムに入札や最適化が行われる運用型広告があります。また運用型広告には、GoogleやYahooの検索一覧に表示されるリスティング広告、画像や動画形式で表示されるディスプレイ広告、複数の広告枠を一元管理して配信最適化されるDSP広告、SNS広告、動画広告、リターゲティング広告などがあります。

どの広告タイプが目的や予算にマッチしているかの見極めが難しい場合は、ぜひいぬのてにご相談ください。

4-8.タレントプール
タレントプールとは、説明会・選考の参加者や内定辞退者など、コンタクトをとったことのある人材をリスト化することです。見込み人材を蓄えておく(プールしておく)ことで、求人ニーズが発生した際にスムーズな応募や人材の確保を低コストでできるようになります。リスト化して放置するのではなく、定期的にコンタクトをとってつなぎ留めておくことが重要です。また、退職者も同様にリスト化しておけば、アルムナイ採用の活性化につなげることもできます。
4-9.エンゲージメント調査
(従業員)エンゲージメント調査とは、既存社員の満足度や企業へのロイヤリティを測る施策です。数値が高ければ社員満足度の高い会社として採用ブランディングにつなげることができます。数値が低い場合は、改善点を抽出して社員満足度を向上させる取り組みが必要です。定期的な調査と改善を行うことで、既存社員から愛され、欲しい人材から選ばれる組織をつくることができます。
5.まとめ
採用マーケティングとは、従来の採用活動にマーケティングの視点を取り入れることで、効率的かつ戦略的に自社にマッチする人材を獲得し、育成することです。これまで感覚的や属人的に行っていた業務の効率や成果を可視化し、データ根拠に基づいた施策を行うことで、誰でも数値を最大化できる仕組みづくりができるようになります。具体的な効果として、応募数の増加や人材マッチ精度の向上、内定辞退防止、早期離職防止、そして採用コストの削減などにつなげることが期待できます。
行う施策の例としては、企業ブランディングやSEO施策、MEO施策、WEB広告運用、SNS運用などがあります。運用データを蓄積してPDCAをまわすことで、体系的なノウハウを蓄積しながら高いパフォーマンスを維持することがでるようになります。
採用マーケティングは短期的に取り組むのではなく、長期的な戦略設計と継続的な運用、そして求職者動向や市場の変化、施策のデータを踏まえた改善の繰り返しが基本です。戦略設計やWEB施策の立て方・進め方、データ分析、改善点の抽出などを行うには専門的な知識やスキルが必要になるため、採用コンサルを専門とする企業に伴走してもらいながら実施するのがオススメです。
いぬのてはWEB施策に強みをもつ採用戦略コンサルサービスを提供しています。幅広いWEBマーケティングのノウハウを活かし、貴社の採用活動の伴走支援が可能です。これから採用活動を戦略的に行いたいと考えている方は、ぜひ一度ご相談ください。
